建築研究開発コンソーシアム20周年記念誌
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CBRD 20th Anniversary 121る「サッカー型」の産業現場が多くあることに起因している。このような現場は連携調整力が強いので、調整集約的な、擦り合わせ型の製品で「設計の比較優位」を発揮するのである。 最後に組織能力(C:ケイパビリティ)について。付加価値は設計情報に宿る。よって「よい設計のよい流れ」、すなわち「付加価値の正確・効率的・迅速な流れ」をつくることが「広義のものづくり」のすべてである。生産性向上やコストダウンも大事だが、まず先に「付加価値の良い流れ」をつくることができれば、コスト(効率性)も品質(正確性)もリードタイム(迅速性)も競争力が自然に高まる。これが、日本が世界に発信してきた、例えばトヨタ生産方式(リーン生産方式)の考え方である。 そのためには、まず「流れ図」をきっちり書くことが重要になる。現場は空間と時間から成り立っているから、「空間流れ図」と「時間流れ図」をいくつかの縮尺で書き、徐々にズームインするのが、その基本形である。例えば、まず全社スケールの大きな「空間流れ図」を描き、流れの悪いところを見つけ、流れの悪さが集中する領域についてはズームインしてもっと詳細な「流れ図」を描く。これにより、工場や産業や企業の境界を越えたものづくり知識の共有が進むことを、私は、20年近い東京大学ものづくり経営研究センターの諸活動を通じて実証的に確認してきた。 品質の組織能力に関しては、総合品質(使用時の顧客満足)は設計品質と製造品質(適合品質)から成ると考える。日本の優良製造企業は、全社的品質管理(TQC)等により、設計通りに現物を作る適合品質では強かったが、アーキテクチャなど設計構想、特に国際標準作りで欧米の後手に回り損をする傾向があった。一方欧米は、設計標準で先手を打つ反面、設計通りに現物を作る「現物合わせ」にまだ弱点があるため、総合的には日本勢はまだ負けていない。 建築物は大地に根を張った人工物であり、使用場所で定置組立を行うなど、通常の工業製品とは異なる面も多いが、「概念設計・機能設計・構造設計・工程設計・生産準備・生産施工・引き渡し・使用」という流れは同じで、製造業との知識共有の機会は多い。また、日本の建築は躯体部分の多くを工場で生産し現場に持ちこむが、米英等に比べ設計思想のインテグラル度が高い点は、日本の強い製造業と共通である。 建築学は、航空工学や自動車工学と共に比較的オールラウンドにシステム全体を見る人材を教育する傾向が強く、この点で製造業が建築業から学ぶことは多い。逆に建築業の「坪単価」発想は、自動車の「キロ売り」に近く、建築業にも高機能工業品の機能主義・サービス発想がもっと入った方が良いと考える。このように、建築業と製造業は、今後もますます、相互学習と知識共有の機会が増えていくものと期待される。

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