建築研究開発コンソーシアム20周年記念誌
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116 CBRD 20th Anniversary 2023年2月8日(水)に学士会館で開催した創立20周年記念講演会では、オンライン参加者を含め153名が参加し、南雲岳彦様、並びに藤本隆宏様のご講演を拝聴しました。以下にご講演の要旨を紹介します。 スマートシティ構築の背景に関しては、世界的には首都に人口が集中するという都市問題に対してテクノロジーを活用していくことが有効な手段であろうというところから始まっており、日本の場合は少子高齢化、人口減少による人手不足問題が大きな起点になっている。加えて、東京への一極集中に対する地方創生の文脈でスマートシティを活用できないかという問題が提起されている。日本政府としては2025年までに全国100地域でスマートシティを展開する計画で、デジタル田園都市国家構想で提示されたスーパーシティなどを含め、全国各地で公募採択された自治体を対象に様々な助成金が出され、スマートシティが実装の段階に入っている。 デジタル田園都市国家構想はデジタルプラットフォームの導入を伴うステージになり、2022年度は27の団体が選ばれ、後述する「ウェルビーイング指標」を導入する形になっている。現在は飛び地的に会津若松市、浜松市という地域が「点」としてのスマートシティを展開しているが、2025年に100地域で実現すると、スマートシティが徐々に地繋がりとなっていき、それから先はデジタル化が当たり前という時代を迎え、近接した地域で「面」としてのスマートシティとなり、最終的には日本全体がスマートネイションという形で進んでいくと思われる。 デジタルプラットフォームはクラウドやAPIなど、構造化されたデジタル共通基盤を基に、いわゆるデジタルソリューションが提供される生活の場になる。そして重要なのはウェルビーイング、サステイナビリティ(持続可能な環境・社会・経済)、イノベーション(地域発の産業革新)この3点である。これまではデジタル化、もしくはスマート化をすること自体が目的になってしまいがちだったが、あくまでデジタル化は手段であり、環境共生、心豊かさ、DXをどういう形で実現するかが国家目標の大きな柱になっている。 一方、世界のスマートシティづくりの文脈は、グリーン×デジタル×エクイティという3つの概念の接点というところに立っている。グリーン、すなわち「脱炭素、環境共生」の分野でいえば、アムステルダムではいわゆるサーキュラー経済(廃棄物の発生を最小限化する循環経済)を市政の中心とし、プラネタリーバウンダリー(地球環境の限界)の範囲内に人間の社会経済活動を限定する行動変容が必要としている。また、デジタルの分野ではデータを相互運用するためには、デジタル基盤のようなものにインターオペラビリティ(相互運用性)が担保されていなければならないという共通の理解になっている。たとえば、2020年にドイツ、フランスが立ち上げた「ガイアⅹ」というヨーロッパの産業のデータ交換システムは、セキュリティとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのインフラ構想で、インターオペラビリティの強化を推進している。 このように、スマートシティの概念は少しずつ変わってきている。社会課題、都市問題に対してデジタルテクノロジーを充てることがスマートシティだと言われてきたが、ヨーロッパではクライメイトニュートラル&一般社団法人スマートシティ・インスティテュート 専務理事南雲 岳彦 様市民の幸福感を高めるスマートシティの思想

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